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ファッション通販【ELLE SHOP】 エル・ショップ

架空の編集者・雨野さんの一日。器使いと暮らしのセンスをのぞく

2025.06.09

暮らしのブランド「アメノイエ」が描く架空の編集者、雨野紡さん。センスがにじむ器使いを妄想ストーリーでのぞいてみる。

 

工芸ショップ「雨晴 / AMAHARE」が手がける暮らしの道具ブランド「アメノイエ」。日本各地の産地とともに、日々の食卓のための器と道具を届けるこのブランドには、一人の“架空の住人”が想定されている。

名前は雨野 紡(あめの・つむぐ)さん。37歳。東京・神楽坂に暮らす雑誌編集者。器と食にひときわ敏感で、でも気取りすぎない暮らしぶり。
「雨野さんの器使い、見てみたいな」。そこから始まった“妄想の訪問”は、朝、昼、お茶、アペロ、そしてディナーへと続く一日へ。丁寧すぎず、ラフすぎない。でもちゃんと整っている、いい暮らし。1日のテーブル風景をとおして、器がもたらす空気を少しだけ、のぞかせてもらう。

朝|9時、コーヒーじゃなくて土鍋ごはん

「どうせ昼前にはみんな来るし、ちょっと早めに来ない? 9時とか」
雨野さんからのLINE。今日はランチ会、でもその前に少しだけ話そうという流れだった。9時2分到着。ドアを開けた瞬間、ごはんの香り。コーヒーかと思ってたら、こっちか。
気づけば椅子に座っていた。キッチンの奥には、「カネダイ陶器」の黒い土鍋。伊賀焼の黒釉が朝の光を跳ね返し、内側の黒に炊きたての白米の艶がふわっと浮かんでいる。
「ふたもぴたっとしまるから信頼してるの」と、さらっと器トークを始めるのは、いつもの雨野さんだ。7寸で2~3合炊き。ゆっくりと火が入るから、鍋料理もおいしく仕上がるらしい。
おにぎりは「marais(マレ)」の 八角プレートに。角はあるけど、張ってない。アンティークみたいな白釉のにじみが、焼き海苔をほんの少し上品に見せている。縁がゆるく立ち上がっているせいか、おにぎりの姿勢がいい。
箸は細くて軽くて、寝起きの手にもすっとなじむ。掴むというより、指が導かれている感じ。「大黒屋」の八角箸。東京・墨田区で職人が手作業でつくる江戸木箸。さすがだ。
「朝って、自分より道具がちゃんとしてくれると助かるよね」。雨野さんのその一言で、ようやくこっちも目が覚めた気がした。

昼|「のせたい」と思わせる器の力

昼が近づくと、ぽつぽつ人が集まり始めた。テーブルにはメキシコの定番料理カルニタスと、とうもろこし粉のトルティーヤ。代々木上原の『トルティーヤクラブ トルティレリア』で買ってきたらしい。 「好きに巻いて食べてね」の声で、ランチがゆるやかに開始。並んだプレートとボウルは、ホワイトとブルー、大小まぜこぜ。マットな釉薬が微妙に揺らいでいて、全体がまとまって見える。
ブルーのプレートに黄色いトルティーヤをのせた瞬間、そのコントラストに目を引かれた。バランスを取るみたいに、もう一枚。つい重ねてしまった。器が“映え”を仕掛けてきている!
「これ、fog(フォグ)っていうシリーズで、作山窯が作ってるの」。どうやら雨野さんは、すでに取材をしたらしい。「美濃焼なんだけど、独自の土と釉薬、焼き方の組み合わせで、洋の料理にも自然に合う色と風合いになってるんだって」
そう言われて見直すと、ブルーの奥にうっすらとグレーがにじんでいるような深みがある。器に、静かな奥行きが生まれている。
のせられるだけじゃなく、「のせたい!」って思わせる器。そういう主張の仕方もあるのか、とちょっと思った。

お茶 │ 「取り皿」をマグの受け皿にした午後

昼ごはんのあと、誰かがラグに寝そべって、誰かはソファに沈んでる。その横で、雨野さんが静かにコーヒーを淹れていた。
運ばれてきたコーヒーに、「あ、fog」と声が出た。ランチで使っていたプレートと釉薬の表情が同じだった。マットな質感が手に心地よく、コーヒーの味までやさしくなった気がする。
てっきりカップ&ソーサーかと思いきや、違った。「ふだんは取り皿にしているけど、マグの受け皿にも使いやすくて」と雨野さん。15㎝のプレートなんだとか。
専用のセットじゃないのに、同じシリーズだからまとまりがいい。色違いで重ねても違和感がなく、むしろちょっとだけ工夫した感がさりげなくおしゃれ。そしてマグだから、たっぷり飲めるのがいい。
プレートの広い余白には、クッキーとチョコレート。家なら箱ごと出すところだけど、こうしてプレートに並んでいるだけで、“ていねいな午後”の気配がする。
我が家もちょっとだけ整えたくなる午後の話。

アペロ │ おつまみが主役に見えるプレート

午後5時、「飲みますか?」のひと声で、みんなの表情がぱっと明るくなる。「今日は予定ないから、夜も食べていけば?」と、さっき雨野さんが言ってくれていたのを思い出す。
さらっと用意してくれたのは、生ハム、チーズ、ドライフルーツ。気取らないつまみなのに、「marais」の楕円プレートにのると、途端に品がいい。朝のおにぎりの皿と形違い、色違い。絵になるな。気づいたらスマホを構えていた。
「ちょっとしたおつまみが、きちんと料理っぽく見えるの。この青色、生ハムのピンクが立ち上がる」と、雨野さん。
赤土にニュアンスのある青釉がかかった器は、ヨーロッパの古い器みたいな趣があって、縁が少し立ち上がっているおかげで汁気のあるものも盛りやすそう。21㎝というサイズ感も、盛り皿として、取り皿として、どちらにも使いやすいらしい。
グラスの中でジントニックの炭酸が静かに弾けて、もうすぐ夜が始まる。そんな空気が静かに整いはじめていた。

夜 │ 違う器、でも喧嘩しない不思議

日が沈みかけ、食卓にまた料理が並び始める。「作り置きだから」と雨野さんはさらっと言うけど、こういう瞬間にこそ、暮らしの濃度がにじむ気がする。
キャロットラペ、トマトサラダ。どれも気負いのない料理なのに、器に盛られると場が整ってくる。ここでも「fog」が活躍していた。自然の景色を映したような釉薬の表情は、野菜を本当にきれいに見せてくれる。
サラダは「marais」の楕円プレートにふわっと。大盛りなのに、広めでゆるやかに立ち上がったリムのおかげで、器の中にちゃんと余白がある。料理の美しさを、静かに、でもしっかりと受け止めている。朝のおにぎりに使っていた八角プレートは、ここでは取り皿に。
「器が喧嘩しないって、いいよね」と誰かがぽつり。たしかに、「fog」と「marais」は形も釉薬も全然違うのに、不思議となじんでくれる。むしろ表情の違いは、テーブルにリズムを生んでいる気さえした。
ワインはすでに開いていて、グラスに注がれていた。雨野さん、やっぱり手際よすぎ。でも、それを「何でもないこと」としてやってのける感じが、この家の心地よさなんだと思った。

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