この記事は2026.7.5の メールマガジン に掲載されました。

生活に変化と彩りを。注目アーティスト4名

2026.7.5

六本木「YUMIKO CHIBA ASSOCIATES」 / 蔵前「mizusai」 2つの現代アートギャラリーとタッグ!

by CHIHARU
ELLE SHOP アート担当

ファッションのスタイリングを愉しむように、もっと気軽にライフスタイルにアートを取り入れて。

そんな願いを込めてキュレーションした作品が、ELLE SHOPにラインナップ。vol.7となる今回は、国内外から高い評価を得る実力派ギャラリー「YUMIKO CHIBA ASSOCIATES」、そして、確かな審美眼を持つアートディレクターの女性ふたりが蔵前に構える注目のギャラリー「mizusai」とタッグを組み、今まさに独自の光を放つ4名のアーティストにフィーチャー。

あなたの生活に変化や彩を運んでくれる作品を、自由に選んでみて。

撮られなかった風景を現像する——村上華子

Photo: Taisuke Yoshida

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※YouTubeが開きます。

現在はパリを拠点に活動している村上さん。その探究の出発点は写真の起源にあった。「昔の写真、例えば写真が発明された当初の“ダゲレオタイプ”と呼ばれる写真は複製ができない一点ものだったのですが、こうした写真を見たとき、強い存在感を感じました。それは、突如、別の世界への回路が開かれているような感覚でした」。その衝撃が、写真を探索する道へと彼女を引きずり込んだ。写真史をさかのぼりながら、写真がどのように生まれ、どのような可能性を経て現在の形になったのかを探り続けてきた。

一見すると抽象画のようにも見える。夕焼けのような赤。山並みのような黒い影。どこか遠い土地の風景にも見えるその作品は、実はカメラで撮影されたものではない。村上華子さんが用いるのは、100年以上前に製造されながら、一度も使われることなく残されてきた写真材料だ。使用期限が切れ、商品としての価値も失われたガラス乾板や印画紙を、自ら調合した現像液に浸す。するとそこに、思いもよらない風景が立ち現れる。「もしこの印画紙が当時使われていたら、どんな景色を写していたんだろう、と考えるんです」。彼女が見つめているのは過去の発掘ではない。その印画紙が経験したかもしれなかった未来だ。

>>村上華子さんの『ELLE DIGITAL』特集記事はこちら

Photo: CEDRIC DIRADORIAN

「村上さんは、写真というものがどこから来て、どのような形で私たちのところに届いているのかということを素朴に考え続けている作家です。写真の起源について深く考察し、イメージの起源という問題を手がかりに、写真の物質性を問い直しながら、どのようにイメージが私たちの前に現れるのかを実験的に制作しています。村上さんの作品は絵画史を考えるうえで興味深い要素があります。印象派の画家たちの視覚が“カメラアイ”と形容されることがありますが、それは印象派が登場した時期と、写真という新しい視覚メディアが社会に広がった時期が重なっていたからです。村上さんの作品を見ると、その関係性がよく理解できるのです。私たちの身体、特に網膜がいかに複雑な構造で世界のさまざまなものを捉えているかが理解でき、自分自身の視線について考える機会を提供してくれる作品だと思います」(YUMIKO CHIBA ASSOCIATES 千葉由美子さん)

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アナログとデジタルのはざまに浮かぶ幽霊を作品に——吉田志穂

Photo: CEDRIC DIRADORIAN

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誰もがスマホで写真を撮れ、簡単に加工できる時代になった。写真は現実であり「証拠」のようなものから、妄想や象徴のようなものを表現するツールに変わりつつあるのかもしれない。しかし吉田志穂さんの作品は、そんな時代を裏切るような不思議な現実感がある。何か映ってはいけないものが見えてしまうような緊張が走る。被写体のうちの何かが、こちらに何かのメッセージを送ろうとしているようにも感じる。いや、もっと違う感覚が呼び覚まされる人もいるだろう。

そこにあるのは、どこか現実離れした風景や、輪郭の曖昧なイメージ。何が写っているのか、どのように撮影されたのか、一見しただけではわからないものも多い。いつの時代か、どこの国なのかも判然としない。「アナログ写真の伝統的なプロセスに、インターネットやGoogleマップ、画像検索、SNSなど、現代の膨大なイメージを組み合わせて、新しい写真表現を探しています」と吉田さんは語る。

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Photo: CEDRIC DIRADORIAN

「吉田さんは写真を学んできた方で、作品も写真というジャンルに属しますが、非常にユニークな特徴をもっています。デジタルネイティブと呼ばれる世代の作家として、“フィルムで撮ってプリントする”という従来の写真の概念ではなく、写真がもつイメージ性を重視しています。そのイメージに置き換えたとき何が生まれるのかを考えながら解体していくその手法は、絵画的でもあります。そして、見た人はまず“これは一体なんだろう?”と感じる。反転しているのか、もともとそういうふうに撮っているのか、どうやって生まれたものか判断ができないし、明かされません。それが見る人の想像力を掻き立てるのです」(YUMIKO CHIBA ASSOCIATES 千葉由美子さん)

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緻密な加賀友禅と九谷焼の技に宿す、毒とユーモア——水元かよこ

Photo: YOKO YAMASHITA

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陶器に描かれているのは、カラフルで、緻密で、エネルギッシュな絵。見知らぬ国の伝統的な文様か、あるいは神話のモチーフのようにも見える。もっとずっとポップでキッチュにも見える。アリス、ハートを撃ち出すピストル、翼をまとったハイヒール、タロットカードやUFO——。「テーマは“日常と非日常”、そして用の美ならぬ“無用の美”の存在として、精神性だとか感情を込めたものを作っています」そう語る水元かよこさんの作品たちは、確かにそれぞれがとにかく何か、強いメッセージを伝えようとしているように思える。この世界は、どのように生まれたのだろうか。

ひとつひとつメッセージが込められている、水元さんだけの世界。今回ELLE SHOP ARTにも出品する代表的なシリーズのひとつが、『不思議の国のアリス』をモチーフにした作品群だ。「不思議の国のアリスというのは、子どもから大人への過渡期の、不安定なストーリー。誰もがそこを通り過ぎて大人になってしまうけれど、あの子供の頃の感覚はすごく大事なものが隠されていると思うんです。その夢と現実の狭間のような、支離滅裂な不安定さ、儚さ、危うさ、といったものに惹かれてこのシリーズを描いています」(水元かよこさん)

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Photo: CEDRIC DIRADORIAN

「水元さんの魅力はすごくストイックなところと、パンク精神を持ち合わせているところ。ひとりのアーティストとして、とても格好いい女性だと感じます。また彼女はもともと加賀友禅の絵付けの仕事をしていたのですが、一度全てを手放してメキシコに行くなど遊学を経て石川に戻り、九谷焼と出合い、また修行を経て九谷焼の仕事をしています。九谷に対する深いリスペクトがありながら自分の世界観に変換している、すごく緻密な作業をしながら表現している作家さんです」(mizusai 光本貞子さん&進藤尚子さん)

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陶の彫刻に、物語を焼き付ける——市橋美佳

Photo: YOKO YAMASHITA

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子どもの頃に集めていた鈴の記憶。『不思議の国のアリス』に登場する、糖蜜(砂糖の製造工程で排出される副産物の液体)で描かれた絵。古墳の中で見た風景。俳句との出会い——。陶芸家・市橋美佳さんの作品は、そんな記憶や物語の断片から生まれる。だが、本人は最初から明確なテーマを掲げて制作しているわけではないという。「こういう作品を作ろうと思って始めるというより、その時々で興味をもったことを形にしてきたんです」(市橋美佳さん)

作品を通して、市橋さんが伝えようとしているものはなんだろう。それを尋ねると、市橋さんはこう答えた。「私から伝えたいことは特にないんです。そうではなくて、その方と作品とが、一対一で向き合う時間がもてるものになったらいいなと、思っています」。糖蜜画の前に立つ人。端園の作品を自宅に迎える人。それぞれが、自分だけの記憶や感情と静かに向き合う。そこには作家が用意した正解はない。記憶から始まり、物語へ潜り、土を重ね、窯に委ねる。その過程を経て生まれた作品は、見る人のなかで新たな風景を育てていく。

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Photo: CEDRIC DIRADORIAN

「市橋さんは、平面作品の糖蜜画(とうみつが)と、立体作品の端園(はなぞの)という作品、タイプの異なる2つのシリーズを作っています。彼女の求める景色が明確にあって、そこに近づけるために形を重ねていく、といった表現プロセスをたどっています。彼女の生み出す独特の空気感に、特に女性のコレクターが多いです。自分らしい空間を作りたい方や、空間を新しい構成を生み出したい人にピッタリだと思います」(mizusai 光本貞子さん&進藤尚子さん)

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